パパの秘密の場所でじっくり娘の話を聞くということ
昨日、出勤してすぐ家から電話があった。
小1の三女が学校に来ていないと担任から連絡が来て、四女を幼稚園に送って帰る途中だった嫁が急いで家に戻ったら、家に帰って来ていたという。
泣きじゃくっていて、どうして帰って来てしまったのか話そうとしないらしく、ようやく義母のうちに行きたい、義母には話すと漏らしたので、連れていくから会社の帰りに連れて帰ってほしいとのこと。
電話を聞きながらいろんなことが頭に浮かんだ。
太ってて縄跳びとかも苦手だし、忘れ物も多いしいじめられたのかな。
僕も嫁も家事その他で手一杯で、子ども一人一人と向き合う時間がなかなか取れないし、口うるさい姉二人に宿題やれだの次の日の支度しろだの言われるし、言い出しにくいことがあったのかもしれない。
明日はお客さんと打ち合わせがあるから休めないけど、背に腹は変えられないから代打立てて休むか。
登校拒否ってちょっと想定外だったけどどうしたらいいんだろう…。
会社が終わってから、車で嫁の実家に迎えに行った。
義母に聞くと、忘れ物をしたことに気づき、そのまま学校に行っても先生に叱られると思って帰ったらしい。
そういうことか、本心だろうな、とは思ったが、やはり本人の口から聞いてみたい。
しかし義母のいるところで改めて聞いても、それ以上のことは話さないと思った。
8時を過ぎ、そろそろ眠くなってくるころ。このまま寝てしまっては、明日も同じことが繰り返される可能性が高い。
明日気持ちよく学校へ行くには、今日中に本人を安心させるしかない。義母に礼を言ってひとまず家へ帰ることにした。
三女は泣きながら抵抗したが、無理やり車に乗せ出発した。
道すがら、帰りたくないの?学校行くの嫌だ?と声をかけるが、ただ嫌だ嫌だと泣きじゃくるだけで会話にならない。
「『嫌だ』だけじゃ、何が嫌なのかわからないから何が嫌なのか教えてよ、家に帰るのが嫌ならしばらく帰らないからさ。」
そう言いながら、これは長期戦になりそうだな、と思った。まず三女が安心して話せるようにしなくては。
3人の娘と嫁の待つ家に帰っても、質問責めにあうか、泣き寝入りするか、すくなくとも居心地が悪いのは目に見えてるから、このまま帰るわけにはいかない。
落ち着いて本心を語れるところ…焚き火を見ながら…それができる場所は遠すぎる。
Fire time!
打ち返す波を見ながら…それも遠い。
A girl in sunrise
…潮騒はないが、夜景はイケるかも。あそこだ。
嫁に、三女の話をじっくり聞いてから帰ることにするから遅くなる、とLINEして、三女に言った。
「嫌だと思ってることをきちんと聞きたいから、家に帰るのはやめて、パパのとっておきの場所に連れて行ってあげる。そこでゆっくり聞いてあげるから。だからもう泣かなくてもいいよ。」
車を都心の方へ向けると、泣くトーンが、拒絶モードから対話モードへ切り替わった気がした。
Night drive with my crying daughter..#imlistening #everythingalright #tosecretplace #tears
よし、これならいける、と思ったのもつかの間。
静かになった車内に別の不安がよぎる。
安心して寝てしまったら、「とっておきの場所」に着いた時には話が聞けないではないか。三女は顔を伏せていて今にも寝そうだ。
「とっておきの場所」までは約30分。このままでは絶対もたない。そこで話を聞こうという場所へ行こうとしているのに、そこまで会話でつなぐのもシンドイ。
泣いた後の気分転換をしよう。冷たいもので喉を潤したい。冷たさが眠気を覚まし、頭を冴えさせてくれるもの…。アイスだ。
ミニストップの手作りソフトが真っ先に思い浮かんだが、フロントウィンドウ越しに見つけたのはローソンだった。
濃厚ショコラ&ミルクワッフルコーン*1と自分用のコーヒーを買って車に戻る。
「アイス買ってきたよ、これすごい美味しいんだよ(買うの初めてだけど…)。はい、持ってて♪」
よし、手が伸びてくれた!
しばらくは持ったまま固まっていたが、皇居の脇を通過するころにはかぶりつきながら、周りを見る余裕も出てきた。
「あそこに日本の王様が住んでるんだよ。」
「へえ、じゃああそこにお城があるの?」
「そうそう、あのお堀の中の森みたいなところが全部お城だよ。」
「今渡ってるのが勝鬨橋。この橋はね、下に船が通る時に車を止めて、真ん中がパカって開くんだよ。今はもう開かなくなっちゃったけど。」
「知ってる!テレビで見たことある。開かなくなったのはなんでなの?」
「背の高い船がなくなっちゃったからじゃないかな。」
「じゃ、今はボルトで固定しちゃってるんだ。」
二人でソフトをかじりながら、たわいない話をしてるうちにレインボーブリッジの見える埠頭に到着した。
そう、ここがとっておきの場所。
「ここはね、パパが嫌なことあったり一人で考えたい時に来る秘密の場所なんだ。この景色見てると、嫌なこと忘れられる気がするでしょ。今日どうして学校行かなかったのか話してくれない?」
「ランドセルに入れたはずのプリントが入ってなかったことがあって、ランドセルの中でなくならないよう、先生がファイルバッグを用意してくれたの。宿題のプリントはランドセルへ入れたのだけど、ちゃんと入れたか心配で何度か開けて確かめてるうちに、そのバッグに入れるのを忘れちゃった。登校途中で思い出した。
先生と忘れ物しないって約束して、入れることに決めたバッグを忘れて学校に行ったら叱られちゃうし、先生に悪い、そう思って家に取りに帰ったの。
家の中でバッグを探してる途中、ママが帰ってきて、今度は学校に行ってないことを怒られるんじゃないかと思って言えなかった。」
「そうか、約束を守ろうとしてたんだね、偉いね。でもいつまでも学校に来ないから、先生はすごい心配してたんだよ。そんなことがあったとはわからないからね。
明日の準備ができたってパパかママも確認すればよかったんだね。
人間だから忘れちゃうことはあるんだけど、毎日同じことを続けていれば、忘れないようにって毎回思わなくても、自然にできるようになるんだよ。
パパかママと一緒に持ち物を確認したら、カレンダーにシールを貼ろう。そうすれば、いちいちランドセル開けなくてもカレンダー見れば安心して学校に行けるからね。」
「うん、そうする。今日はね、図工の日だったんだ。楽しみだったんだけどな。」
「今日ここに来たのは二人だけの秘密だよ。もしまた何かゆっくり話したいことができたら、いつでも連れて来てあげるから。さ、帰ろう。」
1時間くらいレインボーブリッジ見ながら話して、お互い胸のつかえが取れ清々しい気分で家へ帰った。
今日は元気に登校し、家へ戻って来てから明日の準備をして、一緒にシールを貼った。このシールが一月分隙間なく貼られれば、また一つお姉さんになっているだろう。
秘密の場所へ行かず、あのまま家に連れて帰っていたとしたら、どうなっていただろう。ほとんど思いつきの行動だったけど、少しは三女の心に残っただろうか。
20年後に本人に聞いてみたい。
*1:231円!値段など見もしなかったので今知った。こんなに高いもんだったのか、どうりで美味かったわけだ